『図説 金枝篇』

図説 金枝篇
サー ジェームズ ジョージ フレーザー メアリー ダグラス
4487761581


[Amazon]

読了。

フレーザーの著した『金枝篇』がほぼ決定稿となった第三版全十二巻に補遺を加えたものを元に編集を施し、多くの証拠の補完としてふんだんに挿絵を挿入した「図説版」。

先日挫折した『初版 金枝篇』ですが、中身を知りたい欲求が満たされなかったので、読みやすいらしいという評判に釣られて借りてみました。

結論。
ほんとうに読みやすかったです!

これはフレーザーが、“古代ローマのネミの森の祭司が、トネリコの枝を武器とした男に殺されて、その地位を奪われるのはなぜか”、を、古代人の世界を理解する方法によって理屈づけられた、大切な意味を持つイベントだったことを、世界中の民族に伝えられたさまざまな伝統儀式や言い伝えを証拠として読み解いていくものです。

つまり、学術論文だったわけで、だから難解だったのだなーといまになって思い至るわけですが、その難解な原因の半分ぐらいを占めていた、膨大な量の多種多様な証拠が整理され、ひろがりつづけた枝葉部分がそぎ落とされてるおかげで、この本はかなりわかりやすくなっていました。

ある程度神話に関して知識のある方向けとは思いますが、興味があれば読めるレベルだと思います。

以下は目次です。


口絵キャプション
メアリー・ダグラスの序文
J.G.フレーザーによる一九一一年版への序文
編者まえがき
編集ノート

第一部 呪術と王の成り立ち
 第一章 森の王
 ・ディアナとウィルビウス ・アルテミスとヒッポリュトス ・要約
 第二章 祭司たる王
 第三章 共感呪術
 ・呪術の原理 ・類感呪術または模倣呪術 ・感染呪術 ・呪術師の変遷
 第四章 呪術による天候の支配
 ・呪術による降雨の支配 ・王としての呪術師
 第五章 神格をもつ王
 ・神の化身としての人間神 ・自然界を構成する部門の王
 第六章 樹木崇拝
 ・木の精霊 ・樹木の精霊の恵みをもたらす力 ・近代ヨーロッパにおける樹木崇拝の名残
 第七章 植物の生育と性の関係
 第八章 聖なる結婚
 ・神々の結婚 ・ローマの王
 第九章 オーク崇拝

第二部 タブーと霊魂の危難
 第一章 王者の重荷
 第二章 霊魂の危難
 第三章 タブーとされる行動と人物
 第四章 未開人への感謝

第三部 死にゆく神
 第一章 神々の死
 第二章 聖なる王を殺すこと
 ・力が衰えると殺される王 ・一定の期間が終わると殺される王
 第三章 王殺しに代わる慣習
 ・仮の王 ・王の息子をいけにえにする
 第四章 樹木の霊を殺す
 ・聖霊降誕祭の仮装劇 ・人間のいけにえの真似事 ・謝肉祭の葬式、死の追放、夏の迎え入れ

第四部 アドニス
 第一章 アドニス神話
 第二章 シリアにおけるアドニス
 第三章 古今のアドニス
 ・アドニスを祀る儀式 ・アドニスの園

第五部 穀物霊
 第一章 デメテルとペルセポネ
 第二章 ヨーロッパその他における「穀物の母」と「穀物の娘」
 ・ヨーロッパにおける「穀物の母」 ・各地における「穀物の母」
 第三章 リテュエルセス
 第四章 神を食う儀式
 ・初物の聖餐 ・神を食う儀式 ・アリチアに多くのマニイあり

第六部 身代わり
 第一章 災厄の転嫁
 第二章 身代わりについて
 第三章 古代における人間のいけにえ
 ・古代ローマの場合 ・古代ギリシアにおける人間のいけにえ
 第四章 メキシコにおける神殺し
 第五章 サトゥルナリア祭とそれに類する農神祭

第七部 麗しき神バルデル
 第一章 天と地のあいだ
 ・地に触れてはならず、太陽を見てはならぬ ・思春期の娘を隔離すること
 第二章 バルデル神話
 第三章 ヨーロッパの火祭り
 第四章 火祭りの意味
 第五章 人間を焼き殺すこと
 第六章 夏至前夜に摘む魔法の花
 第七章 バルデルとヤドリギ
 第八章 体から離れた霊魂
 ・民族慣習にみられる体を離れた霊魂
 第九章 金枝
 第一〇章 ネミよさらば

 訳者あとがき
 索引




じつをいうと、そぎ落とされた部分も読んでると面白いんですよね。
とくにファンタジー好きなひとにはいろんな形の物語が浮かんできて楽しいんじゃないかと思われます。
共感呪術とか王殺しとか偽王とかオークとか夏至の火祭りとか……!

しかし、そうやってたくさん読んでるとあちこちに妄想が飛んでしまうので、本来の幹が茂った葉の影に隠されてしまい、あれ、なんでこの話がでてきてるんだっけ? みたいなことになってしまうのが、この本の欠点であり、魅力だなと思うのでした。

それにしても、第一版は二巻本だったのが、最終的には全十二巻プラス補遺にまで膨らんでいたとは。
それじゃ、わたしが挫折した初版本なんて、ただのプロローグじゃないですか;

完訳版があるのかどうか知らないけど、読み通すのではなく、気が向いた時にぱらぱらとつまみ読みするのが楽しそうな本ですね。

書かれた時代(十九世紀終わりから二十世紀初頭)から例として挙げられているのはだいたい地中海文化圏のものですが、いろんな土地でいろんな文化を持つ人々がおこなってきた古代の儀式が、じつはほとんど同じ考えのもとにうまれてきたのかと思うと、やはりひとの考えることって似てるんだなと感慨深かったです。

この読後感は、『銃・病原菌・鉄』のとちと似ているような気がしました。

特に第十章に書かれていることには唸らされました。
なるほど、科学も客観的に立証されたことのみを信じる宗教のひとつかもしれない。
立証されないことをどう扱うかは、おおきな問題だものなー。
その部分は結局、個人が信じるか信じないかで決められてしまうわけですから。

全然違うかもしれませんが、これって、決闘裁判が法定裁判になったのと似てるような?
疑わしきは罰せずになるあたりとか。

たくさんそえられているイラストや写真を眺めているのも楽しかったです。
手元に置いてみたい本でした。

Comment

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する