『泣き虫弱虫諸葛孔明 第参部』

泣き虫弱虫諸葛孔明 第参部
酒見 賢一
4163814809


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読了。

待ちに待った酒見賢一先生による大ボラ三国志の第三巻です。

三巻もものすごく可笑しかったです。

無味乾燥な歴史書と現実から離れすぎな民衆本のあいだの大きな断絶を、現代日本のサブカルチャー的な妄想を燃料に埋めまくってる、まじめな三国志ファンにはお怒りの向きもあるのではないかと心配してしまう、いままでになくこれからも多分ないであろう、珍奇な三国志でありましょう。

小説本を読むときは、物語の中に入り込めば入り込むほど読む速度は増すのですが、この本に限ってそれは無理でした。
だって、笑ってしまうから。
それもくすり、ではなく、ぶはっと吹いてしまう笑いです。
笑うと時が止まり、意識が現実に戻ってきてしまいます。
笑ったことだけが残ってて、それまでのストーリーが一瞬抜けてしまいます。

というわけで、面白さに反比例して読むのに時間がかかる本でした。
小説ではなく、講釈師の語り本というのがより近いのではないかと思われる語り口なのです。

そうして語られるのは、孔明の生い立ちから劉備軍にやっと合流し、ぐんしーの職を得た孔明の物語です。

この巻は、曹操軍の怒濤の進撃を辛くも逃れた劉備軍の多大な損失を悼む大宴会から始まり、メインはついに赤壁です。

そう、あの有名なレッドクリフ、赤壁の戦いが最初から最後までが描かれているのであります。

ここでわたしは初めて知るのですが、赤壁の戦いって史実的な主人公は曹操と周喩なんですってね。
魏と呉の戦いなんですってね。
劉備なんてほとんど関係ないんですってね。

ということは孔明もまた、およびでないということになりはしないでしょうか?

でも、三国志演義には劉備軍とその軍師孔明がちゃっかりと登場し、活躍しているそうな。そういえばあの映画「レッドクリフ」にだって堂々と主役級として出演していましたしね。

史実と物語は、異なってもかまわないものなのですね。

とはいえ、三国志演義は劉備軍を参加させるためにそうとうな無理をしている模様です。
つまり、現実的にあり得ないねつ造エピソードがごまん、というやつです。

このねつ造エピソードを騙る作者の筆がまあ、ノリノリでありました。
劉備が魏と呉のあいだに無理やり割って入れるのはむろん孔明の黒い陰謀の仕業です。
すべてが孔明のせいで狂いだすのです……(と書いてあるのです!w)。

今回、初登場の呉の方々は、かなり豪快というか暴力団ぽいというか、言葉遣いからして日本の西方の、土佐弁なのか広島弁なのか博多弁なのかよくわからない迫力あるなまりで人を脅しまくる、それは凶暴そうなお方ばかりで、さらに内部抗争が激しく、まあ、読んでてびっくりしましたが。

それなのに、いままでよりも話が普通に進むのは何故なのでしょうかw

美周郎こと周喩など、庶民の憧れ、男として一度は周兪に生まれてみたいなど、たいそう普通の(この話の中では)英雄です。

おかげで孔明と劉備軍がいかに常軌を逸しているかが鮮明になりました。
おかしいよ、あんたたち。ぜったいに変だよ。人に迷惑かけるのはもうやめなよ、普通に暮らしなよ。
と、言ってやりたいけど、むりだろうなあ。
人間の言葉が通じそうにないもん……。

だから周喩もおかしくなっていったのね。直感的に敵だと見抜いたところがさすが周喩なのかも。ほかの人たちは劉備軍というか孔明の詐術にだまくらかされて、わけがわからないままにあやつられてるものね。

そんなわけで話は魏対呉ではなく、むしろ周喩対孔明という様相を呈することになります。
同盟したのに、味方同士で足の引っぱりっこです。

味方も飽きれる周喩の殺意にふつふつと笑いがこみあげますw
それもまた孔明の魔の手から呉を守るためなのですが。

最後まで孔明に洗脳されなかった周兪は、やはり三国志一のスタア、なのかもしれないなーと思いました。

しかし、孔明は周喩の上手を行く魔性の変質者なのでした。
ラストシーンは孔明がひどすぎて泣き笑いしましたよ。あわれなり周喩……。

映画『レッドクリフ』を見たのが三巻を読む前でよかった、としみじみするような趣の赤壁の戦いでした。

孔明役の役者さんが自然を愛する変質者に見えなくてほんとうによかったw

つづきがとっても楽しみです。

シリーズは文庫になってます。
泣き虫弱虫諸葛孔明〈第1部〉 (文春文庫)
酒見 賢一
4167773082


泣き虫弱虫諸葛孔明〈第2部〉 (文春文庫)
酒見 賢一
4167801221

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