『サイバラバード・デイズ』

サイバラバード・デイズ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
イアン マクドナルド Ian McDonald
4153350036


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読了。

近未来の分裂したインドを舞台に描かれるサイバーSF中短編集。


サンジーヴとロボット戦士
カイル、川へ行く
暗殺者
花嫁募集中
小さき女神
ジンの花嫁
ヴィシュヌと猫のサーカス

訳者あとがき



これは面白かった!
訳文がちょっととっつきにくいところもありましたが、それもふくめて、これまであまり接してこなかったインドのエキゾチックな雰囲気が楽しめました。

日本や中国製のロボットヒーローに憧れるインドの少年を描く「サンジーヴとロボット戦士」から、欧米人と現地人の少年の関わりを描く「カイル、川へ行く」は典型的な異文化接触のお話。

「暗殺者」は連綿と続く階級抗争のなかで敵の一族への武器として生まれたと言い聞かされて育つ少女の、ちょっと谷山浩子の「仇」みたいなお話。

「花嫁募集中」は産み分け技術の発達によって男女比率が極端にバランスを欠いた結果、結婚できない男子たちが奮闘するお話。

「小さき女神」はチベットの生き神クマリとなった少女の、魂の遍歴を描くお話。

「ジンの花嫁」は、ダンサーであるヒロインと存在を禁止された上級AIの、異種婚姻譚のようなお話。

そして「ヴィシュヌと猫のサーカス」は発達したサイバー技術とAIの行き着く果てを、デザイナーズベイビーの少年の視点で描くお話。

訳者あとがきに「多文化SF」と書かれていましたが、まさにそのとおりだと思います。
文化の違いはなにもことなる人種や宗教の間だけに存在するわけではないのですよね。
階級の間にも、世代間にも、ジェンダーの間にもそれぞれことなる意識に根ざした文化がある。
そこに生ずるさまざまな誤解や行き違いが生み出すドラマはSFの枠にとらわれない普遍性を持つのだなーと思いました。

それだけでなく、ここで描かれているサイバー空間の広がりの途方もなさもとても魅力的。
AIが役者として演じるドラマが大流行という社会にはびっくり。
(それって一次創作のキャラクターを使って別のドラマを作るようなものなんじゃw)
情報の蓄積や技術の進歩により、ほとんど人間のように行動しはじめたAIが、ただ肉体がないだけの人間みたいなことになっていくのにまたびっくり。

そこから引き起こされる人間とAIのロマンス「ジンの花嫁」。
AIを炎からつくられたジン(「千夜一夜」にでてくるあれです)になぞらえた妖精譚みたいなこの話に、わたしはとても魅了されました。

サイバー技術の行き着く果て、発達しすぎた科学の世界はまるで異界のようです。
まさに彼岸へといたってしまう最後の話を読んで、大きくため息をつきました。

最先端のサイバーSFで、ファンタジーに出会ってしまったような読後感。
とても印象深い本でした。

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