『華竜の宮』

華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
上田 早夕里 山本ゆり繪
4152091630


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読了。

大陸の大半が水没した未来の地球で、さらなる災厄を目前に懸命に人類の生き残りを模索する外交官の苦闘と、陸上民に排除されようとする海上民のサバイバルを描く、圧倒的スケールの海洋冒険未来SF。


大規模な地殻変動によって低地のすべてが水没した二十五世紀の地球。人類は滅亡の危機に晒されながらも生きのびた。だが、残された陸地にしがみつき情報社会を維持した陸上民と、遺伝子操作により危険な海で生きのびてきた海上民との間には、しだいに確執と緊張が高まっていた。陸上民は海上民の生態に無知なまま嫌悪し、はぐれた海上民の成れの果てで陸上を襲撃する獣舟の大量発生が問題に拍車をかける。日本政府の外交官・青澄とその人工知能アシスタント・マキは、アジア海域での紛争を解決するために海上民の長ツキソメとの会談にこぎつける。ツキソメは素性不明で年齢不明の謎めいた女性だ。青澄とツキソメは互いの立場を理解しあうが、ふたりの間にはさまざまな政府と官僚の思惑が横たわっていた。いっぽう、地殻変動の調査研究機関IERAの春原はふたたび起きる地球規模の災害の予兆を発見して戦慄する。



すごかった!
面白かった!

骨太なテーマと物語を緻密な設定と人間ドラマが支えて、ドラマティックに展開する、終末SFであり、海洋冒険SFです。

まず、海面上昇により人類が一度衰退した世界、というところからぐっと引き込まれます。

なんとか生きのびた末に生まれたあらたな社会形態。

情報技術を維持したままの陸上民の世界はまだ想像の範囲内でしたが、遺伝子改変により自らの体を改造して海へと生活の場を求めた海上民の暮らしが鮮烈でした。

母親の腹から生まれるこどもとその朋・魚舟。
魚舟の、とても人間から変化したとは思えない姿や生態も興味深いですが、過酷な環境でどちらもが生きのびて成人した後に得られるパートナー関係がたいそう魅力的です。

それから、パートナーを得られなかった魚舟が変化した獣舟の存在は衝撃的ですらありました。

陸上民のパートナーである人工知性アシスタントは、平たく言うならばAIなんですけど、このパートナーの存在は物語にも欠かせない存在になっています。

そんなSF的な設定を駆使しつつ、描かれるのは人類存亡の危機を目前にして世界じゅうの民のくらしのために言葉を持って奮闘する、日本政府の外交官僚・青澄公使の苦闘。

海上民の長のひとりとして巨大な船団をすべる女長ツキソメの、波乱万丈の人生。

陸上民のなかにはいりこんで少しでも海上民の権利を守ろうとする兄弟。

書きたいことはたくさんありますが、いちいち言及していると止まらないのではしょりますが、複雑な背後関係と迫るタイムリミットに翻弄されてのスリリングな展開にぐいぐいとひきこまれて、ほとんど潜水艦戦のようなクライマックスではなんども心の中で悲鳴を上げました。

しかも、こんなに現場主義の話なのに、俯瞰する視点がきちんとあって、ラストへのながれがとてもスムーズで納得できて、しかもとても深い感慨を誘うのに泣けました。

青澄公使は人間が人間として到達できるもっとも高い人間らしさを具現した存在のように思えました。
家族を持とうとしないかれのかたくなさは、かれ自身の考える理想の実現には必要不可欠だったのだろうな。

心に浮かんだのは人類のターミナルケアでした。
災害に備えるというのは、一時的なことではなく。
ほんとうはここまで考えなければならないのだなと、思い知らされました。

読んで二日経ちましたが、まだ物語が心の中から去りません。

ちょうど文庫化された模様ですので、興味のある方はぜひぜひ手に取ってみてください。
華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)
上田 早夕里
4150310858

華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)
上田 早夕里
4150310866


海上民の暮らしをもうすこし詳しく知りたい方はこちらの短編集の表題作を。
魚舟・獣舟 (光文社文庫)
上田 早夕里
433474530X


余談。
個人的には青澄公使のアシスタントパートナー・マキが好きです。
かれの存在は一部の層にかなり訴えそうなんですが、実際にはどうなってるんだろうかwww

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