『ヨハネスブルグの天使たち』

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
宮内悠介
4152093781


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読了。

現代世界と地続きの未来を描くSF連作短編集。


ヨハネスブルグの天使たち
ロワーサイドの幽霊たち
ジャララバードの兵士たち
ハドラマウト道化たち
北東京の子供たち



これはすごかったです。

まるでノンフィクション映画を見ているかのような作り物感の無さ。
それでいて、そこはまごうかたなき現代世界の悲劇の現場であるという悲惨さ。
空しい思いをかかえ日々を送る者たちの無力感と厭世感。
それらが淡々と感情を交えずに描かれていくさま。

現実から目をそむけ流されるままの状況で、ひとつのきっかけがひとりの人物に意志を芽生えさせたとき、生まれるドラマの鮮烈さが印象的でした。

舞台が近未来であるらしいことをのぞけば、これらの物語はしいてSFと銘打たずとも成立するのではないかと思わされます。
それだけ、完成度の高い、短編集。

正直、書かれていることの大半をわたしは読み取れていないのではないかと思います。

けれど、これらが決定的にSFであるのは、楽器名目でつくられた愛玩用アンドロイドDX9の存在が大きな役割を果たしているから。

DX9はまず高層ビルの上から降りつづける夕立として登場し、人-機械互換アダプタにより人間の人格の受け皿となり、兵士の代わりに戦闘に投入され、過疎化して廃虚になりつつある団地で歌をうたいます。

人の都合により存在理由を書き換えられるDX9ですが、よどんだ状況にたいする変数の役割を果たして、閉塞した状況を打破するきっかけになるのではないか、という期待が読み手に生まれるような気がします。

そしてこの高度な技術を駆使して開発された堅牢なDX9が日本製であるという点にも、わたしはおおきな慰めを感じてしまったのでした。

内戦中の南アフリカの首都ヨハネスブルグ。
あらたに建設しなおされたツインタワーの中。
戦禍のアフガニスタン。
無政府状態のイエメン。
空襲後に建てられたものの過疎化の進む北東京の団地。

現在では収束したはずの紛争がふたたび立場を変えて繰り返されているという、救われない近未来を描いているため、娯楽としてはあまりわくわくするようなものではありませんでしたが、紛争地の風のにおいをわずかに感じさせてもらったような、ずしりとした重みのある読後感が残りました。

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