『孤児の物語 I 夜の庭園にて』

孤児の物語 I (夜の庭園にて) (海外文学セレクション)
キャサリン・M・ヴァレンテ 井辻 朱美
4488016529


[Amazon]

読了。

王宮の庭園でだれにも省みられずに育ったふしぎな少女が、幼い皇子に夜毎語り聞かせる摩訶不思議な物語。

この本は、凄かった。
見かけは『千夜一夜』の体裁をとってるのですが、読みはじめるとたんなる入れ子構造の話ではないことが次第にわかります。

少女の語る話の中で出てきた人物がまた話を語り、その中でまた人物が語り、と目まぐるしく語り手の交代するいくつもの話が、それぞれ別個のものだと思っていたところが、だんだんそうではないらしい事が判明してくる。

すると、読み手は驚き慌て、既に読んだはずの話をもう一度確かめたくなり、しかし今読んでいる話からも離れがたく、事実、目の前で展開する物語からはなたれる強烈な吸引力に引き寄せられて、うっすらとしたつながりを意識しつつ、いま語られる物語の波に翻弄されて、いつのまにかとんでもないところに打ち寄せられているのでした。

話の土台となる物語世界の不思議さも群を抜いています。

大枠の物語の舞台はとあるスルタンの宮廷、というか後宮の夜の庭。

はじめに語られる物語のはじめの主役は西欧中世の王子様。

なので安心して読んでいると、そのうち星の物語やら月の物語やら月を信仰する怪異な一族やらが現れて、どんどん混沌としていきます。

多くの宗教の信者がつどうという都の存在から、どうやらこの世界の信仰はイスラームやキリスト教ではなく、もっとたくさんの種類のそれはもう様々なものがある模様。

しかもけだものと魔物と人間が混然として暮らしている様子。

わたしは、月を信仰するイー族の話に興味津々でした。
おぞましいのにすごくこころ惹かれます。

荒唐無稽な話が連続する中で、それらのじつは緻密にくまれた設定をかいま見たり、取るに足りない脇役の語った話にでてきた人物が、ずっとあとになってふたたび現れた時に大きな存在になっていたり。

いままで経験してきた物語をよむ楽しみをいくつもとりこんで凝縮したような、いままで読んだことのない新しい物語を読んだ、そんな読書体験でした。

案の定、うまく言い表すことはできませんでしたが、とにかく、凄かった。
翻訳を担当されているのが井辻朱美さんということで、日本語の文章としても読みやすく、典雅な雰囲気が楽しめます。

読んだ傍から読んだ部分を忘れてしまうほどに、いくつもつらなるたくさんの物語を、脳裏で結びあわせていくのが楽しくてなりませんでした。

できたら、この本は手元においておいて、何度も読み返したりしてみたい。

二巻を読む時には切実にそう思うだろうなあ。

つづきも既に刊行済みです。
孤児の物語2 (硬貨と香料の都にて) (海外文学セレクション)
キャサリン・M・ヴァレンテ 井辻 朱美
4488016537

Comment

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する