『孤児の物語 II 硬貨と香料の都にて』

孤児の物語2 (硬貨と香料の都にて) (海外文学セレクション)
キャサリン・M・ヴァレンテ 井辻 朱美
4488016537


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読了。

千夜一夜風異世界曼荼羅ファンタジー。

面白かった。
とても面白かったです!

しかしこの話の面白さをどうやって言葉にしていいのか悩みます。

大枠の物語はオスマントルコ風後宮の庭園にすまう異形の女童が、まぶたに記された物語を皇子たる童に夜毎語る、というもの。

しかし、その語られる物語、当初はふつうの西洋中世風の冒険譚ぽかったのがどんどん変容していくのです。

おのおのの断片は、どうやらアンデルセンやグリムなどを含めた世界各国の昔話に材をとりつつ作者が自由奔放に飛躍させていったものらしく、どこかで見た事があるモチーフながら読んだことない、という、脅威の物語として展開していきます。

その膨大なモチーフの中には日本の河童や金魚もふくまれていたりしますが、それらのバラバラなイメージが作者の筆で多国籍の色をはぎとられ、純粋にこのどこか乾いた物語に奉仕していくさまに、くらくらしました。

河童をこんなふうに読んだことは、未だかつてなかったよ……ため息。

大枠がアラビア風の文化をまとっているので、ジンやスルタンや教皇といったそれらしき香りもほのかに残っているのだけど、それよりも落ちてきた星々の話や死者の島という死生観に関わるお話をしずかに底流に感じつつ、お茶の葉や靴やバジリスクや木の娘などのふつうなら語り手にはなりえないものたちのぶっ飛んだエピソードの吸引力にすっかり参ってしまいました。

しかも、語り手の違う話はそれぞれに閉じて独立したものでありつつも、それまでに語られた話とニアミスしていたり、登場人物が重複していたり、同じ都市の異なる時代を舞台にしていて図らずも年代記風になっていたり、物語世界の全体像がちらちらと見え隠れする加減が絶妙で。

そんな符号を見つけるたびに前のページと照らし合わせて確認したい衝動に何度も駆られたのでしたが、そもそもどの話のどのあたりにそのエピソードがあるのか、大きな流れに翻弄されてしかも読むのにえらく時間をかけてしまい、話のどこにいるのかわからなくなっていたわたしには、すでにその過去も探しようがなかったのでした、嗚呼。

そんな訳者さんいわく「曼荼羅ファンタジー」が迎えるラストが……以下自粛。

これは凄いものを読んでしまった……と思いました。
そしてこのややこしくも壮大な本を翻訳してくださった翻訳者さまと出版してくださった出版社に、ふかく感謝したのでありました。

訳すのも、校正するのも、そうとう難儀だったと思います。

万人向けではないと思われますが、幻想色たっぷりの芳醇な物語の数々をゆったりと読みたい方におすすめしたいです。

個人的に印象に残った話を上げようと思ったけど、選べませんでした。
あ、熊はすきだな。完全に脇役だけどw

孤児の物語 I (夜の庭園にて) (海外文学セレクション)
キャサリン・M・ヴァレンテ 井辻 朱美
4488016529

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