『宝石の筏で妖精国を旅した少女』

宝石の筏で妖精国を旅した少女 (ハヤカワ文庫 FT ウ 6-1)
キャサリン M.ヴァレンテ 水越 真麻
4150205566


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読了。

緑の風に誘われ、アメリカの片田舎から妖精国へとトリップした女の子の、奇想天外な冒険ファンタジー。


五月生まれなのにセプテンバーと名付けられた少女は、アメリカのオマハで機械工の母と二人暮らし。退屈な暮らしに飽き飽きしていたセプテンバーの前に、ある日〈緑の風〉が現れて一緒に旅をしようともちかけた。自分は妖精国には入れないが、そばまで送り届けることは出来る、と。「行くわ!」セプテンバーは〈緑の風〉とともに〈そよ風のヒョウ〉の背中に乗ってオマハの屋根の上から飛び立った。そうしてたどりついた妖精国でさまざまな住人と出会ったセプテンバーはそこが横暴な侯爵の支配下にある事を知り、みなを圧政から解放しようと奮闘することになる——



面白かったー。

『孤児の物語』がわたし的特大ホームランだったので、おなじ作者さんの本と気がつき、あわてて読みました。

『千夜一夜』ぽいアダルトな作風だった前作とは異なり、やさしく親切な『オズの魔法使い』を思わせる冒頭ですが、なかみはこれまで読んできたおとぎ話やファンタジー、民話や童話などなどの要素を踏まえて、読み手の過去の読書体験を刺激しつつ、さらに斬新なアイデアも盛り合わせた、たいへん妖精国濃度の高い、異世界トリップものでした。

つぎからつぎへと現れるキャラクターたちは、なじみ深く、それでいて新しい要素を備えてます。
ワイバーンと図書館のあいだに生まれた(!)ワイブラリー(智竜)のエーエルは、その典型。
ドラゴンと図書館、なんて素敵な組み合わせなんでしょう。

つぎからつぎへとセプテンバーに苦難が待ち受けてて、その背後に悪の親玉が居るのはお約束ですね。

そこでセプテンバーが体験する出来事は、まさに妖精国であるがゆえの象徴的な意味を持つイニシエーションでもあるような。

あかるく、たのしい雰囲気の、ナレーターが語りかけるような文章で話が進みますが、けして愉快なだけではない、残酷な要素も含まれています。あくまで象徴的にあつかわれているので、気づかなければスルーしてしまいそうですが、なかなかあなどれません。やるな、という感じ。

主人公に乗り移って同時体験を楽しむドキュメンタリー的読書というよりは、主人公を見守りながら出来事の表現とその行く末を楽しむ語りの術をあじわう読書でした。

ちょっと距離を置いて俯瞰してみたり、別方向から見てみたりと、物語世界全体をながめるようにゆっくりと読みました。

これは、物語初心者にもおもしろいとは思うけど、たくさんの物語を読んできたすれからしのファンタジー好きのかたにぜひとも読んでみてほしいなーと、思います。

とくに異世界から「帰りたくない」ヒロインに共感するかたに。

読むと、いろんな既視感が味わえるのと、そんなふうに扱うのか、という驚きとに出会えます。
些細なディテールもそうですが、基本の大筋もきちんと異世界もののルールを踏まえてくれてるので、ちゃんと納得安心できました。

そんなわけで、この楽しい物語には続編があります。既に邦訳も刊行済みです。

影の妖精国で宴【うたげ】をひらいた少女 (ハヤカワ文庫FT)
キャサリン・M. ヴァレンテ 水越 真麻
4150205612

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