『朱鳥の陵』

朱鳥の陵
坂東 眞砂子
408771439X


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読了。

飛鳥時代を舞台に、時の皇太妃に夢解きを依頼された女が目撃する、ひとりの女の抱える闇の軌跡。幻想の仲立ちによって華やかなまつりごとの暗部が明かされてゆく濃密なホラー小説。

白妙は常陸国の日枝の郷の夢解売(ゆめときめ)。かつて香島神宮の阿礼乎止売(あれおとめ)をしていたことから、倭国の新益京に呼び出され、時の皇太妃に姉である御名部皇女の夢解きを命じられる。夢とは寝目、寝ている間に開く目だ。陽の出ている間には隠されていることも見られるし、死者が夜見国から戻ってくることもある。皇女の夢には国の秘め事が現れているかもしれない。けして宮の者には洩らすことはできない。内密を厳重に言い渡されて夢を聞かされた白妙は、その場で夢の中に吸い込まれはじめた。その夢ははじめは御名部皇女のものだったが、そこに真向かっていた高市皇子は姿を消し、いつのまにか白妙はひとりの少女となって金堂に累々と横たわる近親者の死体を前に立ち尽くしていた。



タイトルは「あかみどりのみささぎ」と読みます。
怖かった〜。
面白かったけど怖かった〜。

飛鳥時代の雰囲気を濃厚に演出する古語をちりばめた文章。
常陸国から倭国へと移動してきた白妙の述懐による、当時の日本の勢力分布。
時代の庶民の風俗文化、宮廷との隔たり。

時代の転換点で権力者が何を利用してまつりごとを動かそうとしてきたか。

大化の改新から藤原京造成までの時代が、ひとりの皇女の目のまえで展開されていく。(それがだれかは読んでのお楽しみということで。)

その面白さは歴史人物オールスター総出演のドラマがかぶり付きで見られる感じです。
登場する史実に基づく人物をあげていくとキリがない。
わたしは日本史は門外漢なのですが、この時代を背景にしたマンガに思い入れがあったので、登場人物の多さにもなんとかついていくことができました。

ただ、歴史的に記されている名前と物語中の呼び名は異なることが多いので、注意が必要でしたが。

たとえば、「口にするのも畏れ多い飛鳥浄御原朝」というのが大海人皇子のことだと気がつくのにしばらくかかってしまいました。

それ以前の歴代の天皇も、どうやらその時の宮廷が存在した地名で呼ばれているらしく、結局大海人皇子の天皇としての名というか号も、思い出せずじまいのままだったという、お粗末さでした。

が、物語はとても楽しめました。怖かったですが。

今どきのひたひた忍び寄る気配の怖さとか、スプラッターな怖さではないですが、ひとつのことに固執するあまり常識が常識でなくなっていく、純粋だった思いが妄執にまで高まって行くあたりの堂々巡りで行き場の無い閉塞感の内圧の高さと、一線を超えてしまってからの飛躍した論理を信じて疑いもしない意識が怖かったです。そして自分の論理に危険をもたらすもを徹底的に排除しようとするさまも。

そのもはや常識など歯牙にもかけなくなっている人物の行動とその心のうちを、夢を介して目撃しつづけることになる白妙が、心ならずも暗闇に巻き込まれていくのは必然なのでした。ひいい……。

稗田阿礼のエピソードがまた怖いんですよねえ。こちらは歴史をねつ造していく怖さですが。

柿本人麻呂が出てきて、歌は呪(まじな)いだと言ったところが、ラストにつながるくだりがまた、たいそう恐ろしかったです。恐ろしかったです。大事なことなので二回書きました。

これからあの和歌を見るたびこの話を思い出しそう。

それにしても、藤原史、ワルだのう……。

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