覆面作家企画6 Bブロック感想

覆面作家企画6のBブロックの感想です。

自分がいるブロックですが、もちろん自分のは抜かして書いております。
Bブロックはファンタジーが多めだったので、ファンタジー読みの私にはウハウハなブロックでした。推理材料を求めにいった先で長編を読みふけったりして楽しかったです。


B01 異端審問官と異端の聖女

近世ヨーロッパ風。社会を支配する腐敗した宗教組織に対抗して現れた時代の新興勢力たち。

民衆の崇拝を受ける無垢で美しい聖女と、教皇の落し子である異端審問官との、燃える火を背にして繰り広げられる尋問。

火刑は凄く苦しそうでいやですが、苦しみの中、歌を歌いながら逝った聖女の姿が壮絶でした。

苦労性の影が色濃いオールドウ君のその後が心配です。
それと王太子はいつまでその立場を維持しつづけられるのかしら。
オールドウ君と王太子のご対面を見てみたいです。

硬質でありながら華のある雰囲気をもつ文章で描かれる、凛としたたたずまいのお話でした。
このオーラは立神さんのお作のような気がする。


B02 誰か

病弱な少年が窓から見続ける、隣に住む若い女のすがたを描いたお話。
少年の見たままと、見たことに対して抱いた感情だけで構成されていて、状況の説明がないため、読み手によっていろいろと読み方が変わりそうだなと思いました。

少年は彼女に自分の姿を重ね見たことにはじまり、多いに感情移入をしていったわけだけれど、それもたんなる自分勝手な想像かもしれないんですよね。ていうか、ほとんど妄想か。

それも多分に与えられる情報が少ないせいなので、これにはきっと名探偵だって手を焼くに違いない……と思いたい。

しかし、それにしてもラストには驚きました。「交響曲のようにやかましい夕焼け」という表現がすごく印象的。
結局、タイトルどおり、彼女は「誰か」のままだったんだなあと思いました。


B03 <激情>の魔女

人の感情を煽る魔女と人間の男の子の、愛らしい異種恋愛譚。

〈激情〉の魔女が可愛いです。「齢二百の小娘魔女」という表現が楽しいし、粗野で野性的な言葉遣いも、自然と実りの力を持つ存在にふさわしい。

どうやら過去に色々と辛い出来事があった模様ですね。傷つけられた者は心の障壁を高く築くもの。〈激情〉の突っ張ったふるまいも、そのあたりから来ていそうです。

そんな〈激情〉の心にすんなりと入ってきたのが、イル少年。
なるほど、たしかに無邪気で素直だけど、人への心遣いが出来る、たいした少年です。
彼が橋渡しになったから、村の人たちも〈激情〉を抵抗無く受け入れたんだろうなー。

しかし、イル少年、この無邪気さから考えるに、おそらく多く見積もっても十歳くらいなんじゃないかな。将来を考えるにはまだ早いだろうと普通の人間でも思います。

しかも、〈激情〉は人の心を煽る魔女。自分の力のせいで他人の心が余計に信用できません。
「十年後に再会する」という約束は、〈激情〉にできる最大限の理性的な行為だったのかな。

そして十年を待つ間の〈激情〉の姿がまた可愛くてですね!
なんだ、すっかりその気なんだ〜、てところで急転直下になりますが、これはもうお約束の展開ですよね読み手的には。

大きくなったイルと向かい合った〈激情〉の姿はほんとうにただの女の子で、ここでわたくし、もしかして外見も十代くらいなんじゃないかしら、と気がつきました。←遅い。小娘魔女だろ

そして、そのまま読み返したら、つっぱらかった魔女っ子が可愛くてにやにやにやにや……はたと気づいて自分でも何をしてるのかと思いましたw

楽しかったです〜。

そういえば、〈激情〉はかっこじゃなくて、強弱記号の<>を使ってらっしゃるんですね……これはヒントになるのか?


B04 サンシャーラ

生者と死者の邂逅を描く異世界ファンタジー。
ヨーロッパとアジアの中間みたいで、時代も近世より近代よりっぽいような物語世界の設定にも、硬質でセンスを感じる言葉遣いにも、文章のリズムにも独特の個性を放つ、たいそう魅力的なお話しでした。

読み手を突き放すような説明の少ない文章ですが、状況理解に必要な部分はだんだんわかるようになってるんですね。

説明されない固有名詞もそのまま世界を形作る一部として置いておき、物語はかまわず進んでいく。そういうの、私は結構好きです。だって、現実の世界も全部理解してるわけじゃないですから。

ヒロインであるユーリの行動と、彼女の前に現れる不思議な少年、放たれる異能の力、思いもよらない種明かし。

サンシャーラの設定はファンタジーならではのもので、ここまで本格的な異世界ファンタジーを読めたことに感動しました。

でも、このままだと世界がサンシャーラばかりになったりしないかと、ちと心配になりました。
サンシャーラがその定めから解放される話があったら、読んでみたいです。


B05 人類に炎を取り戻してくれたペンギンのお話

元気よく明るく楽しい、童話風異世界ファンタジー。

原初の火を求めてさまよう渋いオジサンの物語なのかと思っていたら、いつのまにかツートンカラーのヤンス君もといウィリー君の大冒険になっていた……www

この話の面白さはまずウィリー君の造形と、ウィリー君とゲオルグの掛け合いの楽しさにあるでしょうね。
だれも予想できない、塩の大地でのペンギン族との接近遭遇! しかもこの自称勇者、しゃべる、よくしゃべる、しかも語尾がヤンス!

すっかりゲオルグおじさんが食われちゃってて、おかげで話がいつのまにかペンギンのくせに泳げないウィリーの泳ぎ修業になってるのに、全然気にならない。

むしろ、読み手もゲオルグも当初の目的を忘れ去ってたりして、ウィリーが言いだすまで思い出さなかったりして。

ウィリーが追われてたのは最初はジョーズもといサメかと思ったけど、どうやらオルカのようですね。あくまでもツートンにこだわってますね。

折り目正しい文章と、丁寧でやさしい描写、それに秀逸なキャラクター。
とても完成度の高いお話だったなと思います。
読んでてすごく楽しかった〜。

この楽しい感じは深海いわしさんの作品じゃないかなーと推測。


B06 闇盗人

読んでいただきありがとうございます。


B07 魔法使いの弟子と赤の受難

変人魔法使いに振り回される、小さなお弟子さんの災難のお話。

明るく楽しいキャラクターの掛け合いに、ディテールこまやかな物語世界の描写が面白い、異世界ファンタジーでした。

人使いの荒い変人お師匠さん、いい性格していますね。
アカガエルになってもお師匠さん一筋のユリちゃん、可愛いです。
しかし、一番けなげなのは、なんだかんだいいつつ面倒見のいい、真面目なお弟子であるオリガだと思いました。

十三歳で弟子入りして一年後、つまりまだ十四歳。
ユリが新米で十六歳の女の子。

オリガはユリを憎からず思っているのかな、と思いましたが、あれ? 性別が書いてない? そしてみなさん女の子だとおっしゃってる?

たしかに、オリガは女性名ですが、でも、私的にはオリガは男の子であるほうがシチュエーション的には美味しいと思うの……だめ?

ファンタジー読みとしては、魔法に関わる設定がこまかくて理屈ぽいのが面白いなーと思いました。


B08 クルーム・ルージュは屍に帰す

炎神に呪われた王国を舞台に、跡継ぎ争いと兄弟愛を描く、異世界ファンタジー。

屍炎師の設定がとてもファンタジーでときめきました。

物事をすこし離れたところから眺めるようにつづられる、王家の兄弟の対話の高貴なたたずまい。さらにクルーム・ルージュというネーミング。

美しくて雰囲気たっぷりでかつドラマティックで、読んでいてドキドキわくわく。

私的一番のクライマックスは、ルージュがフードを取り去ったシーンでした。

信仰的には屍炎を見る力は珍重されそうなものなのに、屍炎師の身分が低い理由がいまいち理解できてない読み手ですみませんですが、死者の言い分があからさまになると困るからかしら。

それから、ルージュはどうやって手紙の内容を把握したのかなーとか。あ、屍炎が読んでくれたのかな。

最後、ユリアスは治世をよくすることで兄への謝罪を果たしたのかなと思いましたが、ルージュはあんまり長生きできなかったようなのが残念です。でもあの傷だし、思う存分屍炎と交流できたようなのでそれでよかったのかも。

ところで、ルージュの「目が盲い」という表現、梶さんの「アーシャラフトの花嫁」に「目が昏い」という表現があるのと似ているなーと気がつきました。

というか、この華のあるドラマティックなお話は梶つかささんです、きっと。


B09 狐の嫁入り

稲荷神社の火事の顛末と、大工の若者と記憶喪失の娘とのふれあいを描く、時代小説ミステリ。

安定した筆致で過不足無く描かれた、とても安心して読めるお話しでした。
起きた事件は残酷な物でしたが、お紺を受け入れた太吉をはじめとした市井の人々の温かさと、お紺の記憶に生き続けるだろうお父っつぁんのぬくもりが、自然と幸せな結末へ繋がります。

お紺の生い立ちと稲荷神社の関係に、なるほどなあと感心しました。

同心の言いつけが多少強引だったのは、きっと太吉さんの人柄を見込んでのことですよね。

時代小説の舞台装置や語彙をあやうげなく使いこなしておられるので、作者さんはきっとお好きでたくさんお読みになってるんだろなあと想像します。


B10 Kindling !


追い剥ぎが農民と子供を搾取する話かと思ったら、翻弄されるのは追い剥ぎの方だった、ギャグ風味の異世界ファンタジー。

テンポよく進んでゆくリズミカルな文章で、田園地帯の風景と、ワンシーンワンシーンがすんなり映像として具体的に思い浮かべられる、ディテール豊かな描写が読んでいて楽しかったです。

追い剥ぎたちが襲いかかるシーンのスピード感、エリュが炎を操るシーンのリアリティーにはぞくぞくしました。

それに、子供たちの会話に混じるメタ発言と、追い剥ぎたちとのちぐはぐなやりとりが可笑しかった〜。追い剥ぎがやたらハゲにこだわるのは、きっと他に弱みを見つけられなかったからのこじつけなんだろなーww

追い剥ぎが自分たちと貴族は同じことをしていると思ってるのと、エリュが自分は火を燃やす側になってみせるというのは内容的に響きあってるんですね。

ドタバタ風味で書かれてるけど、背景にはいろいろとたくさん設定が隠れているような。特別な用語として出てくるのは魔法種だけだけど、それだけではない、と思わせる深さが感じられました。

! や? のあとの一字空けがないのと、炎の描写と、エリュの決意表明から、このお話の作者はenuさんではないかしら、と思います。


B11 夜の灯しびと

瓦斯灯が一般的になった近代の都市の片隅に暮らす、おじさんと女の子のお話。

小刻みに畳みかけるような、歌うような描写の続く色彩豊かな冒頭が印象的。
女の子の一人称で言葉遣いがやわらかくて、シビアな内容なのに童話のようにするする読めてしまいました。

酒場のダンサーとして生きていくことを覚えたばかりのメイには、まだあらたな世界に目を向ける余裕はないんだろうなと思います。
でも、周囲の人には判ってるんですね、少女がいつまでも少女ではいられないことが。
そして、みんなメイに幸せになって欲しいと思ってる。それはメイがいい子で好かれてるってことで、だからメイにはもうすこし大きな幸せをあげたいって思うんだろうな。

夜が自分の世界だってかたくなに言いつづけるメイに、振り返ってごらん、のあとで広がる朝の光が目ににじむようで素敵でした。
気がつかなかっただけで、メイはとうに明るい場所にいたのですよね。


B12 キタキタ

ここここここ、こわいこわいよーひいいいいいっ、ってなってしばらく読み返したくなかったです。

女性の一人称による打ち明け話怪談。
怖い体験を語ってるのに感情を交えず、どこまでも淡々と事実を述べているだけなのがよけいに怖さを募らせます。
自分のことなのにどこか諦め気味で、制御不能な感じを受けました。

「秘密とは等価交換です」
ってセリフがこんな重みを持って後半効いてくるとは思わなかったです。
こんな大事におんなじ重みを持った秘密を返せる人なんか、いやしませんよね。
で、負債を返さずにいると、強制的に発動されるんですね。やだなあ、ホントに怖いよう。

そしてさらに怖いのが、ひとに秘密を渡しても終わりになるんじゃないらしいってとこと、他人に負債を押し付けて生きのびているらしき語り手の存在です。

これ、どうやったら負の連鎖が止まるんだろ。
公民館のおばちゃんに何があったかわかれば、なんとかなるのか。でもそんなのわかりそうにない。

何も解決せず事態もよくならないという、まさにホラーの見本みたいなお話しでした。
これを書いた方はかなりの手だれさんだと思います。


以上、感想でした。

最後に感覚頼りのインスピレーション推理。

01は、硬質で凛とした感じから立神勇樹さん。
02は、窓から車を見下ろすシーンがあったので← 市川イチさん。
03は、セリフ回しからネジ子さん。
04は、こだわりの漢字遣いとクールな格好良さからウルさん。
05は、端正な文章とキャラクターの楽しさから深海いわしさん。
07は、こまやかな魔法設定から咲倉紅羽さん。
08は、言葉遣いと華麗な雰囲気から梶つかささん。
09は、人間関係のこまやかさから星野莢さん。
10は、目に浮かぶような描写とヒロインの意志の強さからenuさん。
11は、歌の歌詞のような描写とやさしいたたずまいから中原まなみさん。
12は、文体も言葉遣いも作品のためだけに奉仕させているような感じから石井鶫子さん。

この記事、予約投稿してみます、ちゃんとできるかどうか不安ですが。
恥をかく覚悟はありますってことで。

たくさん素敵な話が読めて幸せでした。

Comment

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する