『星の羅針盤 サラファーンの星』

星の羅針盤 (サラファーンの星)
遠藤 文子
4488027296


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読了。

神話英雄的な物語と十九世紀西欧的な日常生活が同居する、異世界銃後ファンタジー。

世界には人間の六つの種族と不死のフィーンの国があった。あるとき、ギルデアの若き王がフィーンの至宝であるダイヤモンドを奪い、それを剣に鍛えた。その剣で作り出された不死を与えられた灰色の騎士をもって、ギルデアは領土拡大の野望をあらわにした。フィーンの預言者はギルデアを阻止するだろう英雄の到来を告げたが、予言は果たされぬまま十九年が過ぎた。
ギルデアの隣国テスに暮らしていた十三歳の少女リーヴは、家族とともに雪の降る道を母親の故郷を目指していた。従軍した父親が手紙で前線の戦局の悪化をつたえ、隣国リーヴェインの母の実家に逃げるようにとつたえててきたのだ。自然豊かなフォーディル村では伯父一家が暖かく迎えてくれ、一家はようやく安らぎと安心を手に入れた。リーヴは伯父の家族としだいにうちとけ、とくに楽器フレシートの名手である従兄のジョサに心を惹かれるようになってゆく。



面白かった!

冒頭の逃避行シーンと、至宝の強奪&灰色の騎士などの単語から、なんとなく中世ヨーロッパ風の壮大かつ殺伐とした異世界を想像して、本文で大きく裏切られました。これ中世じゃない、もっと後だ、近代、すくなくとも近世には達してる。それにここでは伝説よりも人間の生活がずっとたくさん描かれてる。

リーヴの母の故郷の描写の彩り豊かな自然といい、保守的で濃密な人間関係といい、こまやかな日常のあれこれといい、まるでモンゴメリの作品を読んでいるようでびっくりしました。

それに、リーヴの従兄のジョサが奏でる鍵盤楽器フレシート。くわしい説明がないので想像だけですが、なんとなくオルガン。彼が憧れてるのはホール据え付けのパイプオルガンみたいなものかなと思われます。音楽がたくさん聞こえてくるのもこの作品の魅力。

子供たちがふつうに寄宿学校に通うところも、中世ではあり得ない。
近代でも平民にはきつかった高等教育を、まるで現代のように享受しているところからしても、庶民がかなりゆたかに暮らしている世界だと伺われます。

多感な少女リーヴの出会う、さまざまな境遇の様々な人々の癖のある描写も、モンゴメリを彷彿とさせます。
兄弟や従兄と心をかよわせる繊細なエピソードもですね。

伯父さんの家を取り仕切る頑固な家政婦のスピリには、とある人物が思い出されてなりませんでしたw

というわけで、たんに少女リーヴの初めてのフォーディル村生活として、たいそう楽しく、切なく、心揺さぶられる物語として読むことが出来ました。

この日常の背景にあるのが、トールキンの指輪物語みたいな戦乱だっていうのを、忘れてしまいそうです。
なんか、戦乱は戦乱でももっと人間臭い戦争を思い浮かべてしまうのですよ。雰囲気的には第一次世界大戦の銃後の話といわれてもすんなり受け入れてしまいそう。

それだけリーヴの日常が豊かでリアリティーがあるってことなんですけど、それに比例して枠になってる物語にそらぞらしさを感じてしまうのがもったいなかったです。

ちゃんと外の世界に繋がるエピソードもあるのですが、ギャップを埋めきることはできてないような。

フィーンの少女エレタナの存在を、どっちつかずに感じてしまうのもそれが原因なのかな。
日常と神話伝説の世界の共存はむずかしいなあ、と思いました。
そういえば、預言から十九年しか経ってないというところにもびっくり。
神話伝説なら半世紀とかふつうに待ってるような気がしますよ。

いろいろ書いてしまいましたが、それもこれも面白かったからです。
思いっきり続くで終わってるので、今後に期待しています
この物語世界の死生観とか信仰とかを知りたいです。

わたしのお気に入りはジョサの弟の誤解を受けやすいハーシュ君。
それにリーヴの母親の従兄弟のロンドロンドです←えらいふざけた名前とそれに見合うふざけた性格がツボりましたwww

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