『天平の甍』

先日、『三国志』関係にあまりに無知な自分を自覚してすこし知識を補充しようと思い立ちました。

で「そういえば家族が吉川英治のを持っていたはず……」と本棚を探したのですが見つからず、当人に尋ねてみると「このあいだ古本屋が来た時に持っていった」。家族は神田の古本屋に依頼して来てもらい、売れそうな本を見繕ってもらってそれだけ売っていたのでした。

ほかに中国ものはないのかと尋ねた私にしばし沈黙の後に帰ってきた答えは「無い」。
それからつけたすように「井上靖ならあるぞ。吉川英治と大して変わらない」←そうなのか。

うーーーん。私が読みたかったのは三国志なんだけどなあ……。と思いつつ、手元の読むものがだいぶ枯渇してきたのでとりあえず読んでみました。

天平の甍 (新潮文庫)
井上 靖
4101063117

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前置きが長かったですが、これは遣唐使として入唐し、日本のためにえらいお坊さんを連れてくることを任務とされた若き留学僧たちの話です。
えらいお坊さんというのが、つまり唐招提寺などで有名な鑑真和上なわけですが、かれについては「えらいひとー」ということがわかるだけで、あくまでも留学僧たちの苦労と苦悩と辛苦の年月が描かれています。

それはもう、淡々と。

書きようによってはものすごいスペクタクルな手に汗握る話になりそうな題材なのに、ごくごくストイックに、真摯に、突き放して書いてあります。
これがこのひとの持ち味なんだろうなあ……。

もうちっと色を付けてくれてもと思うところもじつはあるのだけど、この長い長い苦労の物語を中心を外さずに描くにはこれくらいしないとダメなんだろうなー。

サービス精神豊かとはとても言えないけれど、読んだあとにいろいろと考えさせられる、文学ってこういうものなんだねえとしみじみ感じた作品でした。

しかし、遣唐使ってものすごく無謀な企てだったんだなあ。
なにかすべてにおいていきあたりばったりな感じで、遭難したり捕縛されたり密告されたりするのも当然かと。
それでも知識を得たい、という思いで命をかけて大陸まででかけた日本の人たち。
その切迫感が作品全体の格調高さ故にすこし薄められたような気がするのは、私の読みが浅いせいなんだろうな……。

ところで、主人公が日本人だったせいか、中国のあちこちを転々とする展開だったにもかかわらず中国ものを読んでいる気分にはほとんどなれませんでした。
時代背景的には中国は唐王朝の絶頂期で、皇帝は玄宗で楊貴妃や安禄山の活躍しているころらしいというのがなんとなくわかりましたが。

あと、難破して南の方に漂着したところでインドや中東のほうからきた舟の描写があり、ちょうど『イスラム世界の人びと』の海上民をよんでいる私は、ああこのころこんな感じなのねーと嬉しがったりしてました。

結論。
世界は繋がっている。

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