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『血と砂 下 愛と死のアラビア』

血と砂 下―愛と死のアラビア (2)
ローズマリ・サトクリフ 山本 史郎
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読了です。
すごくおもしろかったー。
結局、これはやっぱりサトクリフ得意の苛酷な運命を前向きに受け入れ、なお最善を尽くそうと努力する人間のドラマでした。
舞台がイングランドだろうとスコットランドだろうとエジプトだろうとヒジャーズだろうと、それはかわらないものでした。
したがって、読後感には気高い魂の最後に対する哀切な感情とあこがれ、のようなものが残りました。
だから単純に面白いと言ってはいけないのかもしれないけど、とにかく私にとってはいつものサトクリフよりもさらに面白かったのです。

理由はおそらく舞台が十八世紀のオスマントルコ帝国だったから。
歴史上のその時代の中東はかなり混乱していて、私もさらっとゆきすぎただけでそんなによく知っているわけではないのですが、それでもいろいろと知ってる単語もしくは知っていた知識が甦ってさらにそのたんなる知識がいきいきとうごいて物語世界に息づいている感動。

最近までイスラム関連の本を読んでいたからよけいにイメージがわきやすかったようです。
なんか、この本のために予習していたような感覚にまで陥りました。

さらに、砂漠の自然が皮膚感覚で伝わってくるサトクリフ独特の緊張感あふれる描写が涙ものです。

そして、驚きなのはこれがほとんど実話だったということ。
スコットランド高地出身のトマス・キースの物語は、彼の妻のエピソードをのぞきすべて史実だそうです。
この絵に描いたような波瀾万丈の人生が現実にあったことだなんて、あとがき読むまでぜんぜんそんなこと思いつきもしませんでしたよ。

T.E.ロレンスよりも百年前にこんな人物がいたんですねえ……。
ああ、びっくりしたあ……。

個人的には、トマスがイスラムに改宗するシーンなどにあらわれる「すべてはひとつだ」という感覚にとても親近感を覚えました。
これは私がスーフィズムについて習っていた時、「これってケルトの一なる女神の思想とおんなじだなあ」と感じたことにかさなりまして。

そういえば、アラブの遊牧民は街のものから異教徒と呼ばれるくらいはじめから熱心なムスリムではなくて、かれらのイスラム化はスーフィズムが浸透したことにより進展したと、以前読んだ本にありましたなー。
トルコのイスラームはスーフィズムが主流だったのかな。

帝国が崩壊する時は、他国との関係とともに多民族多文化多宗教のシステムに破綻を来している場合が多いような気がしますが、トルコの場合もそうなのですね。
腐敗した権力者に代わりより原理的な宗派を名乗って台頭する勢力というのは、ほんとのとこ民族主義者が多いような気もする。

トマスたちが戦う原理主義のワッハーブ派は、今のサウジアラビア王家の元ですが、かれらもいまでは精神的にはどうか知らないけど物理的には清貧とはかけ離れた生活をしているわけで、歴史はくり返すのかなあ、などと思ったり。

あー、なんか読んでいていろいろと別のことを考えてしまいましたが、とにかく、たいそう楽しい時間を過ごさせてもらいました。

あとは、トマスと義弟トゥスンの関係はアヤシイの一歩手前だよなーとか。
アノウドが悲劇のヒロインのままだったのは、ナイリお嬢様とのバランスをとるためだったのかなとか。

訳者あとがきにトマス・キースの生没年がきちんと記されていないとか、誤植が多いとか、とつぜんお江戸の下町言葉みたいな言い回しが出てきて雰囲気を削いでくれたりするのが残念でしたが、総じて読み応えのある、歴史小説であったと思います。

そういえば、ナポレオンのことが風の噂のようにときどき登場しますが、おかげでこの本のことまで思い出してしまいました。

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)
古川 日出男
4043636032

こちらはたぶん、トマスの物語よりもすこし前の話だと思います。

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