『オーバーン城の夏 上』

オーバーン城の夏 上 (1) (小学館ルルル文庫 シ 1-1)
シャロン・シン 東川 えり
4094520384

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読了。

西洋中世風の異世界。祖母の元で呪術師の修業をする少女コリエルは、じつは貴族の庶子だった。夏になると父方の叔父ジャクソンがコリーを貴族たちの暮らすオーバーン城へと連れてゆく。そこにはコリーの大好きな母違いの姉エリサンドラと、あこがれの世継ぎの王子ブライアンがいた。十四歳の夏、まだなにも知らない無邪気なコリーは、叔父に引率された王子とその従兄ケントらとともにふしぎな種族アリオラを狩る小旅行に出る。



『魔法使いとリリス』が好きだったので一抹の不安を抱えながらも購入してみました。
不安というのは、これが翻訳出版老舗のレーベルからではなく、新創刊の少女向けラノベレーベルから出ていることです。

ラノベ風翻訳小説って……とこわごわ読み始めたのですが、それほどぶっ飛んだ文章でもなく、というよりもむしろむりやりラノベ調にしようとして苦心しているようなぎこちなさがあって、それは文章を読む上では違和感なんですが、なんとなくお疲れ様ですといいたいような気分になったのでありました。

お話自体は翻訳物にはありがちなのんびりゆったりとした導入部。私にはおなじみのペースですが、ラノベを読み慣れた人にはちとのんびりすぎるかもしれない。ヒロインの事情と周囲の人間の性格、関係などなどをていねいに描いているのですが、このへんにかなり時間をかけているので、おかげで三年後ヒロインが突如開眼し、俄然面白くなってきたところで下巻につづく、になっております。

そう、冒頭から半分くらいまでは、私にとってもそれほど興味をひかれる展開ではなかったのです。

なにしろ、ヒロインがあまりにも子供で状況がわかっていなくて、他人の事情なんか無関心、ただひたすらカッコイイ世継ぎの王子に憧れてきゃーきゃーいってるだけ。
なのにその世継ぎのブライアンときたら、だれかどうにかしてくれなかったら私がしばきたおしてやりたいと思うほど馬鹿で独りよがりで思慮分別に欠けた短気なうぬぼれ王子で、このままこいつが王位を継いだらまず間違いなく国は滅びると断言できるくらいの嫌なヤツなんですよー。
ああ、やだやだこんな王子。王子だから余計始末に負えないのよ。

というわけで王子が出るたびにイライラしていたわけですが、三年のうちにコリーが多少なりとも成長し、ふたたびオーバーン城に戻ってくると事情が一変。
ある偶然から他人についての観察眼がひらかれたコリーは、これまで自分が見逃していたさまざまなことにいまさらのように気がついて、たいそうな衝撃を受けることになるのでした。

この話、どうみてもここからが本番です。
さあ、コリーとその姉エリサンドラはこれからどうなる?
……て、どうしてここでつづくなんだあ~。

ここまで読んで、これはかなり少女小説っぽいお話だなあと思いました。
このレーベルから出たのは正解だと思う。
導入部を乗り切れば、翻訳物に慣れてない人でもなかなかたのしい読書体験が期待できそうです。

ファンタジーとしてはコリーのおばあさん関係で呪術修行が出てくるほか、コリーが城に持参したさまざまな薬の原料やなにやらがこれからの展開にも関わってきそう。
そして、妖精のようなはかなげな美しさと素晴らしい音楽を持ち、人間たちに奴隷として扱われている種族アリオラの今後も忘れるわけにはいかないでしょう。

ジャクソン叔父さんとアリオラの女王のあいだにあるなにかが、非常に気になります。

下巻は12月の26日ごろ刊行予定だそうです。


魔法と緑の気配にあふれた、ファンタジーの佳品。
魔法使いとリリス (ハヤカワ文庫FT)
シャロン シン Sharon Shinn 中野 善夫
4150203512

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