『悪魔の薔薇』

悪魔の薔薇 (奇想コレクション)
タニス・リー 安野 玲 市田 泉
4309621996

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読了。

堪能しました。
「現代のシェヘラザード姫」と異名をとるイギリスの女流作家の日本独自に編まれた短編集。
編者が、本邦初訳、1979~1988年発表のもの、ホラー色の強い幻想怪奇小説という方針で選んだもの、だそうです。

収録作品は以下の通り。


別離
悪魔の薔薇
彼女は三(死の女神)
美女は野獣
魔女のふたりの恋人
黄金変成
愚者、悪者、やさしい賢者
蜃気楼と女呪者(マジア)
青い壺の幽霊

解説 中村融
タニス・リー著書リスト



作品配列は、「いま・ここ」から次第に遠ざかるように工夫されたそうです。

最初に書いたとおり、じつにじっくりと時間をかけて読みました。
密度の濃い短篇ばかりなので消化するのに時間がかかって、読んでる途中で寝ちゃうこともしばしば。
けしてつまらないわけではないのです。めくるめく色鮮やかな幻想世界を克明に描き出す凝った文章そのものに酔っぱらってしまったみたいです。

しかしこの幻想世界、けしてほんわかだったりぬくぬくしていたりしません。
むしろ皮肉と毒と悪意に満ちていて、語彙豊かなうつくしい文章がそれを際だたせているように感じます。

とくに表題作には唖然とさせられました。
情熱を寄せる少女に対する語り手の何という仕打ち。
劣情に突き動かされて理性を失った代償がこれとは皮肉にもほどがあるかと。

そういった、身も蓋もない話がけっこう多いのがリーの作風なんだと、あらためて思い出しました。

けれど、今回の短編集はそういった悪の美しさだけではない、慈愛も感じさせる話もけっこうありました。

たとえば、「愚者、悪者、やさしい賢者」はほとんど千夜一夜ふうの末子成功譚。
どこで足もとをすくわれるかと身がまえてましたが、平穏無事に話が締めくくられてびっくり。

さらに「蜃気楼と女呪者(マジア)」。
冷酷なマジアに対抗するためあらわれた冷たい慈悲にあふれた仮面の男との結末が、これまた意外なほどふつうにファンタジー的な結末を選択したのでまたびっくり。

「青い壺の幽霊」にいたっては、まあまあまあという感じでした。

というふうに読み終えてみて、この意外さはもしかして読み手の私の変化でようやくリーの話の骨格を読みとれるようになったおかげの産物なのかもしれないと、思いあたりました。

十代、二十代の頃、『闇の公子』などの絢爛豪華な作品を読んでいた頃は、おそらく私はリーの文章に耽溺するあまり、作品全体のことまで頭がまわっていなかったのですな。たぶん。

いまあらためて読み直すとまた新たな世界がひらけそうな気がします。
ホントにするかどうかはわからないが。

ちなみに個人的に気に入ったのは、吸血鬼テーマの「別離」、錬金術がらみの「黄金変成」です。

舞台となった時代や土地のことは、話を読んでいても定かにはわからないことの方が多かったなー。つーか、そんなことはどうでもよろしい些末事である、という気分になる話ばかりでした。

巻末にリーの著書リストが付されていて、これを見ていると他の作品もぜひ読んでみたいものだ、どこかで翻訳を出してくれないものだろうかと思います。

とくに『パラディスの秘録』の未訳の三、四巻とか。
『パイレーティカ』はつづきがまだ二冊あるのかー。どんな話なんだろう。

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