『剣の輪舞 増補版』

剣の輪舞 増補版 (ハヤカワ文庫 FT カ 2-3) (ハヤカワ文庫 FT カ 2-3)
エレン・カシュナー Ellen Kushner 駒田絹
4150204659

[Amazon]


読了。


近世西洋風異世界剣客ロマン(?)
以前同じ文庫から出ていた長編に短編三編をくわえた増補版。
収録作品は以下の通り。


剣の輪舞

謝辞
増補版のためのあとがき

死神という名前ではなかった剣客
赤いマント
公爵の死

訳者あとがき




舞台は異世界だけど魔法はまったく出てこないお話で、以前に読んだときにもふしぎだったのですが、雰囲気はとてもファンタジー。
訳者あとがきに「これは人と人とのかかわるやり方のお話、マナーのファンタジーである」というようなことが書かれていまして、それを読んでああそうなんだと腑に落ちました。
私はこの本に書かれている世界の雰囲気、たたずまい、ひととひととの関係というかひととひととのあいだに生まれるぬくもりある空気のようなものが気に入ったのかなと思ったのです。

お話はおそらく中世の頃からあっただろう歴史ある街で、剣客リチャード・セント・ヴァイヤーとその恋人の元学生アレクが、貴族たちの権謀術数にまきこまれた、その顛末。
からみあった人間関係とそこに生まれる恋のさや当て、陰謀、それらを表に出さずに決着をつけるために呼ばれる剣客たち。

普段私は男同士のカップル話はあまり読まないんですが、この話のなかではそのことが特筆すべきことではなく当然のこととして描かれており、また恋や愛の成就がメインでもないので、抵抗感がありません。

それよりも印象的なのは剣客たちの属する下町リヴァーサイドの光景で、人いきれやシチューのにおいの混じり込んだしめった生あたたかな空気が、よごれた暗い道に流れ出しているかのよう。そんなふうにゆたかな質感にいろどられた庶民の生活がいきいきと描かれているところ。読んでいてその世界を実際に歩いているような気分になれる、細々とした小路の地図を片手にあれがふたりがビールを頼む店だよとかいいつつ散策したいような気分にさせられる。

そして登場人物たちのふるまいや台詞のかもしだす、えもいわれぬ雰囲気、空気を堪能する。ひとつひとつのシーンを味わい反芻する。

わたしにとってこれはそんなお話なのかなーと思われます。

だからほとんどストーリーを追うことなく読み進んでしまい、話の筋が見えなくなってしまうこともしばしばだったのですが(苦笑。

でも、そもそもストーリー展開を楽しむような話ではないような気もするし。

そんなわけで、最後に待っている種明かしにはまたわくわくとしてしまいました。二度目なんだから知っているはずなのに、なんなのだろうこの期待感は(笑。トレモンテーヌ侯爵夫人、かっこよすぎ。これまたあとがきにありましたが、彼女はたしかに女性版光源氏みたいです。私は源氏の君がかっこいいと思ったことはないけど、侯爵夫人はそう思う。女性びいきだからか?

今回加えられた短篇では、一番おもしろいというか興味深かったのが「公爵の死」でした。
むー、この公爵はかれ、なのでしょうかね。どこまでも人物を特定しない意味深な書き方に深い興味をかきたてられました。かれらのその後はいったいどんなだったのだろうとかね。

楽しく味わい深い、粋なお話でした。

三部作の第二作でデリア・シャーマンとのコラボ作品『王と最後の魔術師』が6月25日に発売予定らしい。
第三部はタイトル不明ですが、こちらも訳出されるようなので楽しみです。

Comment

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する

Trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)