『介子推』

介子推 (講談社文庫)
宮城谷 昌光
4062637960

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読了。

晋の公子重耳につかえ、人知れず暗殺者の手からあるじを守り抜くが、重耳の覇業が完成したとき忽然と姿を消した、中国古代の英雄伝説をモチーフに描く、歴史小説。

著者の『重耳』はかなり前に読みました。重耳が艱難辛苦の果てに覇業を成し遂げたことは覚えてましたが、案の定、介推のことは全然記憶にありませんでした。
しかし、何にも覚えてなかったことはこの作品を読むに当たってはむしろよかったのかもと思いました。
展開がわかっている話を無心に読めるほど純真じゃないからねえ。

というわけで、英雄伝説です。
といっても万人の前で大活躍した美丈夫とかじゃありません。
普段は黙々と任務をこなして、誰も知らないところでひそかに命がけの活躍をしているという、隠れたヒーローのお話です。

介推という名のかれがのぞんでいるのは、重耳のあゆむ聖道をみとどけたい、そのはてに成立するすべてにおいて瑕のない楽園のような国を見たい、ということ。
ものすごく潔癖で純粋、だからかれは重耳や彼に仕える臣下たちをいちいち評価せずにいられない。わずかな濁りもかれを不安にし、失望させてしまう。
読んでいて、いったいあんた何様ですか、と言いたいような気持ちになること数知れずでしたが、読み終えて考えた。

もしかしたら介推というのは人間ではないのかもしれない。
山の仙人、もしくは精霊で、人間にとてつもない興味を持って期待していた存在、なのかも。介推の母親からして、ぜんぜん生活感がないし。すると、彼女は人間に恋して子供を産んだ山霊の異端者なのかも。だからこんなにきれい事を連発するのかも。

介推にひとつだけ人間っぽさがあるとしたら、兄弟のように育った石承に対するこだわりですが、この関係も私の期待したような負の大イベントなどひきおこさず。石承の存在は介推の心を人間界に向けるきっかけに過ぎなかったのかいな、と思わされました。

というわけで、たまたま人間のために尽力してみたけれど、けっきょく自分の理想は人間には実現できないと感じて去っていった、精霊のものがたりというふうに読めば、かなり納得できるなと思いました。

そしたら、解説で中国文学研究家の井波律子さんがほぼおんなじようなことを書いておられました。

むー、読みは当たっていたけどなんとなく気が抜けた(苦笑。

ひさしぶりに宮城谷作品を読めて幸せでした。
このつぎは年代順に読みたいなーと思ってます。
すると『沙中の回廊』になるのかな。


沙中の回廊〈上〉 (朝日文庫)
宮城谷 昌光
4022643021

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