『記憶の肖像』

記憶の肖像
中井 久夫
4622045540

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読了。

精神科医・大学教授・現代ギリシャ詩翻訳家のひとの初エッセイ集。

大阪の近郊で育ち、神戸の高校を出、京都で大学医学部を、大阪大学でインターンを終え、京大と東大の研究所でとにかく働き、東大(分院)、東京都下の(東大系でない病院の)精神病院、名古屋市立大学、神戸大学で教育精神科医として働いている。



というのが著者の経歴ですが、このコースはたいそう珍しく、限りなく再現性が低いのだそうです。

以前読んだのは最近のものでしたが、こちらは1992年に刊行されたもの。
体験と英知に裏打ちされた、明晰で穏やかな文章が心地よいです。
いわゆる昭和一桁生まれのかたなのですが、こんなに受動的で攻撃性のない文章を書かれるひともいらっしゃるんだなーと感心する。

収録タイトルは以下の通り。


 I
島の病院
たそがれ
信濃川の河口にて
龍安寺にて
ドイツの同世代の医師
N氏の手紙
過ぎた桜の花
ある応接間にて
ピーターの法則と教育の蟻地獄
日本人の宗教
日本の医学教育
桜は何の象徴か
人間である事の条件 英国の場合
ささやかな中国文化体験
「故老」になった気持ち
戦後に勇気づけられたこと
ロシア人
待つ文化、待たせる文化
花と時刻表
国際化と日の丸
一夜漬けのインドネシア語
荒川修作との一夜
淡路島について
顔写真のこと
花と微笑

 II
神戸の光と影
あるドイツ人老教授の思い出
神戸の額縁
名谷に住む
住む場所の力
ある青年医師の英知
ワープロ考
神戸の額縁の中味
野口英世とプレセットさん
悲しい親たち
暴力に思う
ギリシャ詩に狂う
神戸の水
ある大叔父の晩年

 III
私の仕事始め ウイルス学の徒弟時代
精神医学と階級制について
治療のジンクスなど 精神科医のダグアウト 1
私の入院 精神科医のダグアウト 2
神戸の精神医療の初体験 精神科医のダグアウト 3
知念の年に 精神科医のダグアウト 4
ジンクスとサイクルと世に棲む仕方と 精神科医のダグアウト 5
意地の場について
治療にみる意地
精神科医から見た子どもの問題
見えない病気の見えない苦労
精神科医としての神谷美恵子さんについて
井村恒郎先生
日本語を書く
一つの日本語観 連歌論の序章として

あとがき



精神科医のこと、神戸のこと、いじめのこと、日本と外国の文化のこと、ご自分の思い出とどれも興味深い題材ですが、一番面白かったのはやっぱり日本語のこと。
日本語について書かれたエッセイが、私がこの方を認識する初めだったのです。

あと、意地の場の話はものすごくなるほどなーと思いました。
説明するのは私にはむつかしいので省きますが。

ほんとうに読みながらいろんなことを考えさせられてしまう一冊。
読み終えると少し視野がひらかれたような気がします。
たぶん、一時的なものですぐに元に戻ってしまうのだけど。

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