『ヴォイス 西のはての年代記II』

ヴォイス (西のはての年代記 2)
アーシュラ K.ル・グウィン; 谷垣 暁美
4309204783

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読了。

ル=グウィンの異世界ファンタジーシリーズ、第二部。
舞台は第一部よりだいぶ南下して、たくさんの神々を信仰する歴史ある商業都市アンサルとなります。


沿岸の美しく賢い都市アンサルは砂漠からやってきたオルド人によって侵略され、征服された。唯一の神を信仰し文字を嫌うオルド人たちによって、アンサルに蓄積された知識は破壊され海に沈められた。オルド人に襲われた母から生まれた少女メマーは、母の親族である道の長サルター・ガルヴァの館ガルヴァマンドで育った。オルド人の拷問のために身体が不自由となったガルヴァの元には、ひそかに救い出されてきた本が隠されていた。メマーは母親の記憶をたどってその秘められた部屋へ入ることができた。隠れて本を眺めていたところをガルヴァに見つかったメマーは、この部屋のことは秘密にしておくようにと命じられ、その後ガルヴァから読むことを習うようになった。そんなある日、アンサルに〈高地〉からすばらしい語り人がやってきた。語り人オレックは妻のグライとライオンとともにガルヴァマンドを訪れる。



はー、すごかった。面白かったという言葉ではなまぬるい、迫力がありました。
第一部は神話のような趣だったけど、第二部は完全に人間の物語。
〈ギフト〉にふりまわされる人々を描いた前作から一転して、今回描かれるのは異文化間の接近、衝突、融合です。

オルド人に暴力を受けたアンサル人の母から生まれた主人公メマーの複雑な生い立ちと環境は、オルド人とアンサル人の距離を象徴しているのですね。
彼女ははじめ自分を完全にアンサル人側に置いてオルド人を敵とみなしているけれど、自分の中のオルド人の要素から幾ばくかの利益もひきだしていたわけで、そのことを肯定していくことによって人生の影が希望にも転じうることを学んでいきます。

その手助けというかきっかけになるのが、第一部の主人公だったオレックとグライ。

かれらの客観的な意見がメマーにあらたな視点をもたらすのは、まさに旅の語り人の役割だなあという感じ。

そして、もちろんオレックはこの物語における大きな波に多大な影響をもたらすのだけれど、グライとライオンのシタールの存在感には特別なものがあると思います。メマーはオレックに憧れるけど、グライに抱く親近感と想いはたいせつな女性の肉親に抱く情に近いものがある気がする。

たぶんメマーにはガルヴァというおじいさんはいたけれどふた親の存在を埋めてくれる人がいなかったから、ふたりはそこにすんなりとおさまったんじゃないかな。

砂漠からやってきた一神教のオルド人はなんとなくイスラームやモンゴル人を思わせますがそれだけではなくキリスト教のイメージも含んでいるようです。

異なる文化を持つ者たちが憎しみあう、この殺伐とした社会から生まれる波がたんなる抗争で終わらず、対話と融合へと繋がっていく過程はただの歴史物では到達できないと思う。こういう解決の仕方ができるのはファンタジーの特権なのではと思います。

第一部の少しもの悲しいようなラストからこの希望の差し染める人のにぎわう所まで、オレックたちの歩いてきた道に思いを馳せると感慨深いものがありました。

うん、名作です。

第三部はまだ刊行されていませんが、今年予定ということになってます。

ギフト (西のはての年代記 (1))
谷垣 暁美
4309204643

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