『トレマリスの歌術師 1 万歌の歌い手』

トレマリスの歌術師 1 (1)
ケイト・コンスタブル 浅羽 莢子 小竹 由加里
4591103439

[Amazon]


読了。

歌で魔法を使う歌術師の滅びかけているトレマリスを舞台に、好奇心旺盛な少女を中心とした一行の冒険と苦難を描く異世界ファンタジー。三部作の開幕編。

この本は読み始めて来た来た来た~!
と叫びたくなるほど私の趣味にマッチしていました。

三つの月が女神としてあがめられる世界トレマリス。
九つの力をわけあたえられたそれぞれの民族が、歌による魔法を駆使してきた歴史があるものの、次第に歌術を受け継ぐものが減少し、歌術師はひとびとに蔑まれ、歌術はもはや現実のものではないと認識されるようになっていた。

ヒロインのカルウィンの住むアンタリスは氷の壁によって外界から完全に孤立し、歌術を大切に受け継いできた巫女たちによって統べられている小国。
しかし、カルウィンは好奇心旺盛で落ち着かない女の子。巫女見習いをしているが、死んだ母親がアンタリスから逃亡し、彼女を身ごもったまま帰還したという生まれのせいもあって監視の目がとてもうるさく、外の世界に憧れていた。

そんなカルウィンが一人前の巫女になる年の春を迎える頃、絶対に通れないはずの氷壁の内側に重傷を負って行き倒れたひとりの男を発見する。

かれはどうやって侵入してきたのか。警戒する巫女たちに、異邦人ダロウは、すべての力の歌を求めすべてを破壊する大国メリツロスの皇子サミスに追われている、アンタリスにも危機が近づいているのだと告げる。

巫女たちは精神的に病んでいるように見えるダロウの言葉を信じなかった。かれが正気だと感じたカルウィンだけが耳を傾ける。

ところが、怖ろしい歌術師は本当にやってきた。
カルウィンはダロウを逃がそうとして衝動的に自分も後を追いかけてしまう――氷壁の外へと、抜け出してしまったのだ。


――というわけで、カルウィンとダロウの旅がはじまります。
はじめは逃亡のために、それからあとは戦うために。

旅物語の定番としていろんな登場人物が増えてゆき、必ずしも親しくないものたちが次第にうち解けたりケンカをしたりして、そのやりとりが楽しい。話も大変起伏に富んでいて、つぎからつぎへと災難に巻き込まれます。悲劇もあります。悲しみの描写は、昨今のどんどん死人が出るようなものとは異なり、距離を置いてですがたいへんに深く描かれて胸をうたれます。

魔法の歌の描写がすてきです。歌の魔法は最近ファンタジーにとてもよく出てくるのですが、この作品のは別格のような気がする。

歌術師という設定もとてもユニークだと思いました。さまざまな力の歌はそれぞれに歌えるひとの資質に民族だけではない違いがあったりして、そんなこまごまとしたことを知れば知るほど、ストーリーにとても上手く絡んでくるのが面白い。

それに微妙に遠回しですがロマンスもあります。
ダロウははじめ三十代に見えたのに実は意外と若くて、それはたぶん心労と疲労のためだとおもいますが、言動がとても厳しいのとサミスへのゆれうごく心情が表情に表れる落差が魅力的。
十五歳のカルウィンとはずいぶん年の差カップルで、なかなか進展しませんが、このじれったさも王道ファンタジーならでは?

とにかく、役立たずかとおもわれた人物まで活かしきり、最後まで満足満足。

作者さんはオーストラリア出身だそうで、そのあたり南半球の出来事なのかなーと感じられる文章があったり、アボリジニーみたいだなーと思われるところもあったり、そんなディテールもとても楽しかったのでした。

なんといっても翻訳家浅羽莢子さんの遺作? というのかなんというのかわかりませんが、とにかく最後に手がけられたシリーズなのです。残念ながら一巻の途中でお亡くなりになったそうで、共訳として記されている方が引き継ぎいで全体を仕上げられたそうなのですが、随所に浅羽節が垣間見られ、シャープで威厳ある雰囲気が物語のムードをさらに押しあげている感じ。

つづきは2008年9月刊行予定だと、巻末広告に載ってました。
はやく読みたいです。

唯一残念だったのは、この予告広告、ネタバレしすぎなんじゃないでしょうか。
読まない方がよかったなんて思う広告を、その本そのものにつけるなんてちょっと無神経な気がする。むう。

Comment

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する

Trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)