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『八百万の神に問う 4 冬』

八百万の神に問う4 - 冬 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼
4125012946


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読了。

言葉で問題を解決する音導師の活躍を描く、和風異世界ファンタジーシリーズの完結編。

人々の苦しみを忘れさせる楽土の存在理由と意義を問いつづけてきた物語は、シン音導師の最後の音討議をもって終幕を迎えます。

楽土を平らげようとするディセント連邦の代理人としてシン音導師に対するのは、死んだと思われていた兄弟子のザイオン音導師。

かれはそこで楽土の成り立ちと仕組みを外で得た知識によって明らかにします。
衝撃の真実に動揺する楽土の人々。

瀕死のシン音導師は、いかなる言葉によってこの苦境を乗り越えていくのか。

数日間におよぶこの音討議の展開がこの巻の最大の見せ場です。

やはり興味深いのは、楽土の成り立ちや仕組みです。
これって日本人の精神世界そのまんまだなあと思いました。
宗教と呼ぶには理がなさすぎて、けれども漠然としているからこそ融通が利く。さまざまなものを受け入れてみせるけど、根本が変化することはない。ルーズだからこそしたたか。

日本神話には人間創造のエピソードがないそうですが、さもありなんですね。

読みながら、自然神と祖先神の信仰って、どっちが先なんだろう、並行して存在してたのかな、などと、話とは関係ない方向に思考がさまよい出てしまいました。

ザイオン音導師の論旨は、かつてのキアナ島の歴史をかんがみて、その同じ轍を踏もうとしている楽土を非難するものでした。

これまでは楽土の中だけでその意義やなんやかやを討議してきたわけですが、今回は外からの視点をもちこんでの論議となり、これがまた興味深かったです。

内と外との区別って、無意識に自分もやってそうな気がします。
内にひきこもらず、外を排除せずに心をひらいて、視野を広げなさいっていわれているような気がしました。

ほんとうにうまく物語をたたんだなあと感心しました。
これは楽土の物語、おたがいを愛し慈しむひとびとのこころの物語だったんだなー。

と、まあ、物語の流れとしては素晴らしかったのですが、人物ドラマに関してはちょっと物足りなさが残りました。

とくに冒頭からここまでひっぱってきたイーオンの物語。
起きたことはわかるし、その理由も成り行きも理解も出来るのですが、これがシリーズすべての謎を解く鍵なのだと思い込んでいたので、なんかさらっと流された気がしてしまいます。

ザイオン音導師ことヤコウの物語は、キアナ島での発見によりいたった結論に違和感が残りました。
わたしの読みが間違っているのかもですが。

それと、もうひとりの重要人物リオン。
かれの告白は大変に重要でしたが、かれの視点でしかわからないところにもどかしさが残ります。

イーオンとヤコウがリオンをどう思っていたのかを、もうすこし描いて欲しかったな。
物語としてはこれで十分に完成しているのですが、そのあたりを加えて冬だけでも上下巻くらいにしてもよかったんじゃないかなーと思ったり。

大きい猫さんは楽しかったです。最後まで読むと感慨深い。

物語のおおきな救いはシン少年の成長でした。
ふりかえってみると、このシリーズ通しての軸はじつはかれの物語だったようですね。
ちょっと出来過ぎだけど、かれのおかげでほっとしたところがたくさんありました。

おかげで読後感がたいそうよかったです。

いろいろ濃密な読書をさせていただき、感謝しています。

シリーズ開幕編はこちらです。
八百万の神に問う1 - 春 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼 天野 英
4125012458

『八百万の神に問う 3 秋』

八百万の神に問う3 - 秋 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼
412501275X

[Amazon]

読了。

和風異世界ファンタジーシリーズの第三巻。

天路国の楽土でゴノ里の防人をつとめる若者トウロウ。おだやかな物腰でだれからも親しまれるかれは、じつは出散渡国の軍人であり情報提供者だった。ついに真の楽土へ行けという命令を受けとったトウロウは、死期を悟りナナノ里へ発つミサキ音導師のつきそいを申し出て鳥居道をくぐりぬける。そこでかれは、思いもかけない人物と再会して動揺する。楽土に対する怒りと憎しみをつのらせたトウロウ。シン音導師に見抜かれたトウロウは、彼女と厳しく対立することになる——

というようなお話です。

うら若き音導師サヨ、異境者の少年シンとつづいたメインキャラクターは、今回は出散渡人でありながらすっかり楽土の住人としてなじんでいる若者トウロウにバトンタッチされました。

常に笑顔で周囲に真意を悟らせない凄腕の剣客が、心に抱え込んでいる深い闇と孤独がようやくあきらかになる展開です

随時ライアン・ハートなる人物について語る告白の章が挟まれますが、これがまた、嫌が応にも好奇心をそそる材料になりまして、上手い構成だなあと思いました。

楽土に住みながら楽土になじまず、楽土を拒みつづけるイーオンの存在が、トウロウの迷いを深くするあたりもおもしろかった。

このふたり、感情的には共感しあってもいいはずなのに、なぜか対立してしまうんですよねー。

それはトウロウの抱える矛盾したつよい感情の為せる技なのですが、凝り固まって視野狭さくに陥った者は、なかなか冷静にはなれないものなのですよね。

今回も物語は音討議でクライマックスを迎えますが、この音討議がほんとうにおもしろい。

音導師って弁護士みたいだなと思います。
観客すべてが陪審員。その場のすべてに共感させることによって、みなが納得できる結論が生まれるのは、いいなあと思います。
それは楽土という土地柄のおかげで、現実にはこんなにうまくはいかないんだろうけども、理想的な紛争解決法だなーと。

出散渡国とフィランスロ教の関係は、西欧とキリスト教の関係に相似してますが、フィランスロ教の元になったキアナ島の伝説というのがあきらかになって、そんな皮相的な話ではないのだなということがわかり、これにも興味津々です。

エピソードの終わりがしみじみと心をうつのもこのシリーズのよいところですね。

そしてまた、ラストシーンに驚愕して次巻へつづきますw
つぎは完結編。すでに読了済みです。←珍しい。

わたしの贔屓はシン少年です。イーオンに弄ばれつつ、日々を頑張って過ごしてます。

八百万の神に問う4 - 冬 (C・NOVELSファンタジア)
多崎 礼
4125012946

『宝石の筏で妖精国を旅した少女』

宝石の筏で妖精国を旅した少女 (ハヤカワ文庫 FT ウ 6-1)
キャサリン M.ヴァレンテ 水越 真麻
4150205566


[Amazon]

読了。

緑の風に誘われ、アメリカの片田舎から妖精国へとトリップした女の子の、奇想天外な冒険ファンタジー。


五月生まれなのにセプテンバーと名付けられた少女は、アメリカのオマハで機械工の母と二人暮らし。退屈な暮らしに飽き飽きしていたセプテンバーの前に、ある日〈緑の風〉が現れて一緒に旅をしようともちかけた。自分は妖精国には入れないが、そばまで送り届けることは出来る、と。「行くわ!」セプテンバーは〈緑の風〉とともに〈そよ風のヒョウ〉の背中に乗ってオマハの屋根の上から飛び立った。そうしてたどりついた妖精国でさまざまな住人と出会ったセプテンバーはそこが横暴な侯爵の支配下にある事を知り、みなを圧政から解放しようと奮闘することになる——



面白かったー。

『孤児の物語』がわたし的特大ホームランだったので、おなじ作者さんの本と気がつき、あわてて読みました。

『千夜一夜』ぽいアダルトな作風だった前作とは異なり、やさしく親切な『オズの魔法使い』を思わせる冒頭ですが、なかみはこれまで読んできたおとぎ話やファンタジー、民話や童話などなどの要素を踏まえて、読み手の過去の読書体験を刺激しつつ、さらに斬新なアイデアも盛り合わせた、たいへん妖精国濃度の高い、異世界トリップものでした。

つぎからつぎへと現れるキャラクターたちは、なじみ深く、それでいて新しい要素を備えてます。
ワイバーンと図書館のあいだに生まれた(!)ワイブラリー(智竜)のエーエルは、その典型。
ドラゴンと図書館、なんて素敵な組み合わせなんでしょう。

つぎからつぎへとセプテンバーに苦難が待ち受けてて、その背後に悪の親玉が居るのはお約束ですね。

そこでセプテンバーが体験する出来事は、まさに妖精国であるがゆえの象徴的な意味を持つイニシエーションでもあるような。

あかるく、たのしい雰囲気の、ナレーターが語りかけるような文章で話が進みますが、けして愉快なだけではない、残酷な要素も含まれています。あくまで象徴的にあつかわれているので、気づかなければスルーしてしまいそうですが、なかなかあなどれません。やるな、という感じ。

主人公に乗り移って同時体験を楽しむドキュメンタリー的読書というよりは、主人公を見守りながら出来事の表現とその行く末を楽しむ語りの術をあじわう読書でした。

ちょっと距離を置いて俯瞰してみたり、別方向から見てみたりと、物語世界全体をながめるようにゆっくりと読みました。

これは、物語初心者にもおもしろいとは思うけど、たくさんの物語を読んできたすれからしのファンタジー好きのかたにぜひとも読んでみてほしいなーと、思います。

とくに異世界から「帰りたくない」ヒロインに共感するかたに。

読むと、いろんな既視感が味わえるのと、そんなふうに扱うのか、という驚きとに出会えます。
些細なディテールもそうですが、基本の大筋もきちんと異世界もののルールを踏まえてくれてるので、ちゃんと納得安心できました。

そんなわけで、この楽しい物語には続編があります。既に邦訳も刊行済みです。

影の妖精国で宴【うたげ】をひらいた少女 (ハヤカワ文庫FT)
キャサリン・M. ヴァレンテ 水越 真麻
4150205612

『孤児の物語 II 硬貨と香料の都にて』

孤児の物語2 (硬貨と香料の都にて) (海外文学セレクション)
キャサリン・M・ヴァレンテ 井辻 朱美
4488016537


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読了。

千夜一夜風異世界曼荼羅ファンタジー。

面白かった。
とても面白かったです!

しかしこの話の面白さをどうやって言葉にしていいのか悩みます。

大枠の物語はオスマントルコ風後宮の庭園にすまう異形の女童が、まぶたに記された物語を皇子たる童に夜毎語る、というもの。

しかし、その語られる物語、当初はふつうの西洋中世風の冒険譚ぽかったのがどんどん変容していくのです。

おのおのの断片は、どうやらアンデルセンやグリムなどを含めた世界各国の昔話に材をとりつつ作者が自由奔放に飛躍させていったものらしく、どこかで見た事があるモチーフながら読んだことない、という、脅威の物語として展開していきます。

その膨大なモチーフの中には日本の河童や金魚もふくまれていたりしますが、それらのバラバラなイメージが作者の筆で多国籍の色をはぎとられ、純粋にこのどこか乾いた物語に奉仕していくさまに、くらくらしました。

河童をこんなふうに読んだことは、未だかつてなかったよ……ため息。

大枠がアラビア風の文化をまとっているので、ジンやスルタンや教皇といったそれらしき香りもほのかに残っているのだけど、それよりも落ちてきた星々の話や死者の島という死生観に関わるお話をしずかに底流に感じつつ、お茶の葉や靴やバジリスクや木の娘などのふつうなら語り手にはなりえないものたちのぶっ飛んだエピソードの吸引力にすっかり参ってしまいました。

しかも、語り手の違う話はそれぞれに閉じて独立したものでありつつも、それまでに語られた話とニアミスしていたり、登場人物が重複していたり、同じ都市の異なる時代を舞台にしていて図らずも年代記風になっていたり、物語世界の全体像がちらちらと見え隠れする加減が絶妙で。

そんな符号を見つけるたびに前のページと照らし合わせて確認したい衝動に何度も駆られたのでしたが、そもそもどの話のどのあたりにそのエピソードがあるのか、大きな流れに翻弄されてしかも読むのにえらく時間をかけてしまい、話のどこにいるのかわからなくなっていたわたしには、すでにその過去も探しようがなかったのでした、嗚呼。

そんな訳者さんいわく「曼荼羅ファンタジー」が迎えるラストが……以下自粛。

これは凄いものを読んでしまった……と思いました。
そしてこのややこしくも壮大な本を翻訳してくださった翻訳者さまと出版してくださった出版社に、ふかく感謝したのでありました。

訳すのも、校正するのも、そうとう難儀だったと思います。

万人向けではないと思われますが、幻想色たっぷりの芳醇な物語の数々をゆったりと読みたい方におすすめしたいです。

個人的に印象に残った話を上げようと思ったけど、選べませんでした。
あ、熊はすきだな。完全に脇役だけどw

孤児の物語 I (夜の庭園にて) (海外文学セレクション)
キャサリン・M・ヴァレンテ 井辻 朱美
4488016529

『孤児の物語 I 夜の庭園にて』

孤児の物語 I (夜の庭園にて) (海外文学セレクション)
キャサリン・M・ヴァレンテ 井辻 朱美
4488016529


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読了。

王宮の庭園でだれにも省みられずに育ったふしぎな少女が、幼い皇子に夜毎語り聞かせる摩訶不思議な物語。

この本は、凄かった。
見かけは『千夜一夜』の体裁をとってるのですが、読みはじめるとたんなる入れ子構造の話ではないことが次第にわかります。

少女の語る話の中で出てきた人物がまた話を語り、その中でまた人物が語り、と目まぐるしく語り手の交代するいくつもの話が、それぞれ別個のものだと思っていたところが、だんだんそうではないらしい事が判明してくる。

すると、読み手は驚き慌て、既に読んだはずの話をもう一度確かめたくなり、しかし今読んでいる話からも離れがたく、事実、目の前で展開する物語からはなたれる強烈な吸引力に引き寄せられて、うっすらとしたつながりを意識しつつ、いま語られる物語の波に翻弄されて、いつのまにかとんでもないところに打ち寄せられているのでした。

話の土台となる物語世界の不思議さも群を抜いています。

大枠の物語の舞台はとあるスルタンの宮廷、というか後宮の夜の庭。

はじめに語られる物語のはじめの主役は西欧中世の王子様。

なので安心して読んでいると、そのうち星の物語やら月の物語やら月を信仰する怪異な一族やらが現れて、どんどん混沌としていきます。

多くの宗教の信者がつどうという都の存在から、どうやらこの世界の信仰はイスラームやキリスト教ではなく、もっとたくさんの種類のそれはもう様々なものがある模様。

しかもけだものと魔物と人間が混然として暮らしている様子。

わたしは、月を信仰するイー族の話に興味津々でした。
おぞましいのにすごくこころ惹かれます。

荒唐無稽な話が連続する中で、それらのじつは緻密にくまれた設定をかいま見たり、取るに足りない脇役の語った話にでてきた人物が、ずっとあとになってふたたび現れた時に大きな存在になっていたり。

いままで経験してきた物語をよむ楽しみをいくつもとりこんで凝縮したような、いままで読んだことのない新しい物語を読んだ、そんな読書体験でした。

案の定、うまく言い表すことはできませんでしたが、とにかく、凄かった。
翻訳を担当されているのが井辻朱美さんということで、日本語の文章としても読みやすく、典雅な雰囲気が楽しめます。

読んだ傍から読んだ部分を忘れてしまうほどに、いくつもつらなるたくさんの物語を、脳裏で結びあわせていくのが楽しくてなりませんでした。

できたら、この本は手元においておいて、何度も読み返したりしてみたい。

二巻を読む時には切実にそう思うだろうなあ。

つづきも既に刊行済みです。
孤児の物語2 (硬貨と香料の都にて) (海外文学セレクション)
キャサリン・M・ヴァレンテ 井辻 朱美
4488016537